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おれの名前はポンペイ!
世界の海をまたにかける航海士!…の息子だ!!

父ちゃんはすごいんだ!このでっかい船、ハモニカ号のキャプテンで、
世界一の航海士なんだ。部下だっていっぱいいて、おれたちはこの船で暮らしてる。
まあ、おれもいずれ父ちゃんのあとを継いで、すげえ航海士になるんだけどな。

それから、となりで一緒に釣りをしているのは幼なじみで親友のルイ。
めちゃくちゃ頭がよくてこいつも航海士を目指してる。
こいつは赤んぼの頃、おれの父ちゃんに拾われたんだ。この船はそんなやつばっかりだけどな。
今日もいい潮風が吹いて、絶好の海釣り日和だ!

そんなことを考えていると、ふいにおれの両腕がぐいっと引っ張られて体勢を崩した。
「お、おいポンペイ!手を放すなよ!」
「うわ…うわわわわ!釣りざおごと持ってかれるぞ!ルイなんとかしろ!」
うわーーーーーーー!!!大ピンチだぜ!海に引きずりこまれる……っ!
そのとき、宙に浮いたおれたちの体は力強く船に引き戻された。

おれたちが顔を上げると、怪訝そうな父ちゃんの顔が間近にあった。
「えーっと…君たち。なにを遊んでるのかな。甲板の掃除は終わったのかい?
サボってると、サメのご飯にしちゃうからね?」

父ちゃん!!いつもクールでかっこいいなあ。
父ちゃんは、いつでも冷静な判断と行動力で船のみんなを守るのが仕事なんだぜ!

「おう、ポンペイ、ルイ!また怒られたのか!?おめえらもこりねえなあ。
キャプテンもいつ船を沈められるかと気が気じゃねえぜ!!!あっはっは。」
この船の父ちゃんの部下たちは、みーんないい人だ。おれたちをほんとの息子みたいに
かわいがってくれる。おれはスッゲー幸せだ!!



「ルイ、今日も持って来たのかい?」
「はい、キャプテン!今日のは難しいですよ!?」
「ははは、楽しみだ。」
今日もおれたち3人恒例のナゾナゾごっこが始まる。
ルイはナゾナゾを作るのがシュミなんだ。父ちゃんはそれを解くのがシュミ。
でも父ちゃんのほうがすごいから、いつもすぐに解かれちゃう。

『あかときいろとあおの、さんかくのまんなか
けむりのでるひかりのさすところ』

「どう?父ちゃん、何を指してるか、わかる?」
「ふむ…なるほど……。わかったぞ」
「えっ!?もう、ですか?」
「あかとあおのさんかくは、甲板の旗の色。
きいろは、食料庫の南の窓から入る、午後3時の陽の光の形。
これの真ん中とは、第一デッキの先端だがここには何もない…なぜか。
実はここには、午後3時になるとシェフのニコラさんが一服しに来るんだ。
ニコラさんは胸元にいつも日時計をつけているが、ここに陽が当たって光が反射するんだ…
つまりこのナゾが指す場所は……、このわたしの部屋の中だ!」

す、すげええ!おれたちはいつもどおりの完敗だ。やられた。
「ははは、もっと賢くなりなさい。世界はナゾと冒険にあふれているんだ。
まだまだわたしを超えるのは難しいようだね?」
ちっきしょう。いつかゼッタイ超えてやる!カッコイイ男になってやる!



そんな船暮らしのおれたちも、たまには港町に停舶して荷おろしや食料の仕入れをする。
あるとき、西の大きな港町の酒場でこんなうわさを聞いた。

10年くらい前まで、このあたりは西と南の街同士の争いが耐えなくて、市民はみんな
困っていたそうだ。ところがあるとき、海から海賊と名乗る集団が津波のような
大船団でやってきて、その争いを見事に仲裁したそうだ。
その海賊たちは市民を危険にさらすことなく、悪いヤツだけこらしめて帰った。

酒場の酔っ払いの話は、いつもは適当に聞くんだけど、
今回ばかりはおれもルイも目を輝かせて聞き入った。
海賊ってカッコイイ!おれたちの目標はこれだ!!伝説の海賊に会いに行くんだ!!!

その日からおれたちは海賊に夢中になった。
伝説だってみんな言うけど、ゼッタイどこかにいると思う!おれたちは海賊に会うんだ!!
弟子になって世界一のカッコイイ海賊になって、父ちゃんを超えるんだ!



それから何日かたって、ハモニカ号は、突然たくさんの大きな船にかこまれた。
南の港街の船団だった。キャプテンらしきあごヒゲの男がおれたちの船に渡ってきた。
たくさんの南の街の人たちも次々と乗り込んできて、緊迫した空気が流れた。

「やあ諸君。わたしはこのあたりの海をしきっている、南の港街の市長だ。
君たちの船が危ない目に合わない様に巡回しているというわけだ。」

父ちゃんが真ん中であごヒゲを睨んでいる。
何が巡回だ。こうやっておまえらが貨物船から金とか巻き上げてることは知ってんだぞ!

「おかえりいただこう。これはわたしの船だ。あなたに守っていただかなくても結構だ」
そうだそうだ!父ちゃんもっと言ってやれ!

「…そうはいかないのだよ。この船が、西の街の御曹司を乗せていると
聞いてね。…さあ、さらった子供を返してもらおうか。」

そう言ってあごヒゲはニヤリと薄笑いを浮かべると、なんとルイに手を差し伸べた。
ルイは唖然としていた。誰も声が出なかった。父ちゃん以外は。

「さらってはいない。あなた方の争いに巻き込まれて置き去りにされたのだ。
…この子を使って、西の街も手に入れる気かな?」

あごヒゲの表情が一変した。
「命令が聞けないのなら、全員捕らえてもよいのだぞ。人さらいとしてな。」

…きっ、きったねえええええ!!父ちゃん!ピンチだぜ!!おれは思わずこぶしを握った。
その時、あごヒゲの部下の1人が声を張り上げた。

「市長殿!自分、この男を知っているであります!
こいつは伝説の海賊ジョニーと呼ばれる男です。間違いありません!!」

…え?だれが?

シーンと静まり返った中で、父ちゃんが大きくひとつため息をついた。
「海賊業はやめたんです。大事な息子たちの教育に悪いのでね。
しかし、お帰りいただけないというのなら話は別です。」

父ちゃんはポケットから出したバンダナを頭に巻いた。
ハモニカ号の大人たちもみんな巻いた。
ええーーーーーーーーっ!うそだろ!?
父ちゃんがあの、伝説の海賊!? みんなも!?……す…げええええ!!!!
…でもそのバンダナは…ダセぇぞ父ちゃん!!

「サメのご飯にしちゃいますよ?」
父ちゃんがすごみをきかせると、やつらは船へ逃げ帰っていった。
でもあごヒゲはすっごく怒っていて、この船を港に入れなくするぞと怒鳴っていた。
父ちゃんは「心配はいらないからね」と言うと
おれの頭をゴシゴシなでて、父ちゃんのバンダナを巻いてくれた。

それから、父ちゃんはあごヒゲの船に連れて行かれてしまった。

なんでかわからなくて、引き上げていく船団に向かっておれは父ちゃんって呼び続けた。
ニコラさんが泣きながら「キャプテンは取引したのよ。」と言っていた。
なんだよそれ。なんで父ちゃんが連れて行かれちゃうんだ…。

でも父ちゃんが、このハモニカ号を守ったんだってことはわかった。
ルイもおれも子供で、このときはまだなんにも知らなかったんだ。



それから5年後、おれたちの船は父ちゃんと母ちゃんが出会った街、
ハモニカタウンを訪れた。
おれはここで、父ちゃんの帰りを待つことにした。
船旅の途中で、父ちゃんを南の方で見かけたっていうウワサを聞いたんだ。
きっと父ちゃんはココへ帰ってくる!
ハモニカ号のキャプテンはルイが継ぎ、交易の旅を続けることになった。
あいつなら立派に父ちゃんの船を守ってくれるだろう。



………おや?
わしは…どうやら昔の夢を見ていたようだな。まだ夜明け前ではないか。

ふむ…そうだった…わしとルイはあのあと、町のあちこちに宝物を埋めたのだ。
いつか父親が戻ってきてくれるようにと願い、とびきり難しいナゾナゾを添えて、
父親から譲り受けたバンダナも一緒に入れた。
伝説の海賊ジョニーなら、きっと戻ってきてくれると信じてな。

…そうして40年がたった。
このオオトリ島の夜明けも何度見たことか。
む?…浜辺に人がおるな。なんと、わしらの宝にたどり着いた若者がおるようじゃ。
…そうか、過去の旅路はこれで終わったのだな。
これからは、未来ある若者たちに夢と冒険を託すことにしようかの。



END