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もう何年前になるか覚えてないくらい昔の話よ。
大陸の北の、さむーい地方を通りがかったときにアイツと出会ったの。

そのあたりは、岩肌の多い荒野で街なんてひとっつも見つからない。
日は暮れてくるし、砂交じりの風が目に入るし、ま…迷子だし!
もぅ気分はサイアク!早くお風呂にはいりたーい!!

そう思ってホウキを飛ばしていると、急にガツン!と何かにぶつかって
バランスを崩して地面に落ちたの。
「いったぁ〜い。なによもう。」

そうしたら、同じように地面に転がっているあいつが目の前にいたワケ。
「んもう!前見て飛びなさいよ!
あとね、もし食べ物とか持ってるならさっさとこの魔女さまによこしなさい。」

アタシはまくし立てたわ。見るからに弱そうな半人前の魔法使い。
でも、アタシの魔力…もとい魅力があれば、何でも手に入っちゃうんだから☆

その魔法使いは、ぶつけた頭をさすると、表情を変えずに淡々と言葉を返してきた。
「おなか…すいてるの? 来たら…いい。すぐそこ…。」
丘の向こうには小さな村っぽい集落があって、テントみたいなモノがいくつも並んでた。



半人前の魔法使いは、ランプの灯を揺らしながら温かいスープを渡してくれたわ。
アタシの大好物の猛毒キノコがたくさん入ってたの。やるわね☆

半人前は人間のじじいと住んでいたわ。人間にしてはずいぶん歳で、足をわずらって歩けない。
「俺の…お師匠様。魔法教えてくれる…もとは占い師。」

アタシ呆れちゃったわ。何よ、人間のペットってわけ?
第一そんなヨボヨボな人間が魔法なんて教えられるわけ無いじゃない。
眉をしかめた瞬間、テントに突然男が怒鳴り込んできた。

「おい!よそ者を連れ込んだそうじゃないか!キサマ、明日には出て行けよ!」
男はそれだけ言うと、アタシをひと睨みしてすぐに出て行った。
「んまぁーずいぶんな物言いね、この魔女さまに向かって!」
アタシはちょっとムカッとしたわけ。なんなのよレディに向かって!
「…すまない。この村の人間、…よそ者キライ。タタリがあるとか…。
…俺も、きらわれてる。」

ふん、人間ってココロ狭いのよね〜だからイヤなのよ☆
続けて半人前は深刻そうにつぶやいた。
「さいきん…このへんもテューティの被害…すごいから。」

テューティ?なにそれ。
半人前は、村のことやテューティのことを、ゆっくり話し始めた。

テューティっていうのは、雪山に住むサルのようなクマのような生き物で、
村の家畜や作物を襲う動物だとか。凶暴ねぇ。ジョーダンじゃないわ。
明日にはこんなとこサヨナラしてやるんだから!
老婆が泊まって行きなさいって言うから、その日はここで眠ることにしたの。
その夜は、遠くで何かの遠吠えがやたら聞こえていた気がするのよね…。



翌朝、陽の光に誘われてテントから這い出すとギョッとしたわ。
目の前に白くて小さい毛だらけの何かがうずくまっていたんだもの!

「…テューティだ。ケガ…してる。」
うしろから半人前が言った。 ゲッ!凶暴なんでしょコイツ!

その時、村の奥の広場の方から人間のオトナたちの荒々しい声がした。
「どこ行きやがった!米を根こそぎやられたぞ!」
「うちの家畜もだ!!探し出せ!」
半人前のヤツ、とっさにその"白い毛玉"を抱えてテントに戻ったの。

「どういうつもりよ!そいつ!家畜荒らしなんでしょ!?」
あたしは怒鳴った。食われるのはごめんだもの。

半人前は何度も首を振った。
「テューティは…ちがう。人間の真似するのがスキ。
それに…この子まだ子供だし…荒らしたのはちがう…ヤツ。」

コイツが言うには、テューティには人間の村の様子を見て真似をする習性があるらしいの。
それで夜に村に下りてきては、
脱穀の真似をしたり、家畜をさばく真似をしたりしちゃうわけね。
結果的には、テューティに悪意は無くても、人間が困ってるってこと。



とにかく、それからは大変だったわ。なぜかこの魔女さまが巻き込まれる羽目になって
"白い毛玉"のケガが完全に治るまで面倒見ることになったのよ。めんどくさいわね〜。
ただでさえ、村の人間たちがテューティ狩りを始めたもんだから、
かくすのがとーっても大変だったのよ!

師匠のじじいはいつも、半人前にもあたしにも"白い毛玉"にも、こう言っていたの。
「魔法っていうのは、奇跡のちからだよ。だれにでも優しい気持ちでいれば
幸せな奇跡が起きるからね。」
…ふーん、それが魔法って言いたいの?魔法はそんなちっぽけなモンじゃないわ。
あたしはいつも、ナットクできない気持ちでいっぱいだったわ。
でも…そうね、親ってこんな感じかしらとか、ちょっとうらやましいかもって
少しは思ってたのよね☆



事件が起きたのは10日後の真夜中だったわ。

「大変だ!…えーと…! 起きて…!大変!!」
半人前の声で目が覚めると、お師匠様が苦しそうにしていたの。
「だれかが…毒を…。…お師匠様に。」
えーウッソー!なんてことすんのよ!

そのとき、村の広場からも人間のわめき声が聞こえたの。
もう訳も分からず、あたし達は村の広場まで駆けつけた。
そこには、たくさんの村人に囲まれて震えていたる"白い毛玉"がいたわ。
村人たちは、オノだとかクワだとか、ぶっそうなもんを持って息巻いてる感じだった。
あーあ、ついに見つかっちゃったのね。
あらら……その手に持っている毒キノコは何かしら。

「もう無理ね。やっぱり人間に危害を加えるバケモノだったのよ」
ってあたしは冷ややかに言うしかなかったわ。見るからにゼッタイゼツメイってやつだし。
それでチラッと半人前を見たら、見たこと無いくらい険しい顔をしてるわけよ。

「あいつ…俺の料理をマネして…作ったんだ。お師匠様の病気…治そうとして
…し、知らずに毒キノコを…。」

……あらぁ、そうだったの。毛玉も優しいとこあるじゃない。人間には猛毒だけどね。
…でも、やめなさいよ。
あんたが今、魔法で人間を傷つけたって、あんたのお師匠様は喜ばないわ。
アタシが何とかしてあげるから感謝しなさい!



それから先は、アレよ。
あたしも、ひさしぶりに魔法なんか使っちゃって人間たちを追い払ったのはいいけど
結局、そろってバケモノ扱い。村から追い出されちゃったのよネ。

お師匠様は、毒のせいで眠りっぱなしになってしまったの。
こんなことになるなら、ナットクできないこと、ぜーんぶ言っとけばよかったわ。
…なによ!毛玉のやつが優しい気持ちであんたに料理を作っても、奇跡は起きなかったわ!
アタシたちが毛玉を助けようとしても、奇跡なんか起こらなかったわよ!!
ウソつきよね。これだから人間は…。

お師匠様のことは人間たちが面倒を見ることになったけど、
アタシたちにはどうしようもなかった。
旅立つ前の晩、半人前は眠っているお師匠様の手を握って話しをしていたようだったわ。
「必ずもどって来ます。俺があなたを助けます。
優しい気持ちで人に接していたら、きっとあなたを救える魔法使いになれますね。」



こうしてアタシは、半人前の魔法使いと"白い毛玉"と一緒に、
また旅を続けることになったの。
長〜い間南へ旅をして、やっとこのハモニカタウンに戻ってきたって訳ネ。
アイツも最初は人間になじめなかったけど、
今では占いとか引き受けちゃったりしてちょっと楽しそうなのよ。
ま、アイツが寂しい思いをしていないなら、あたしとしては満足ってとこかしら☆



じゃ、またネ☆


END