出演

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◇クラリネット地区

まだ日の出前の薄暗い明け方の牧場。
二階の子供部屋では姉と弟がいつもなら寝ている時間であるのに
既に起きていたのか寝ていないのか、話し声がしている。


「おねえちゃん、やっぱりぼくが行くよぅ」

「それって、けっきょく二人いっしょにはいられないってことだよ?」

「じゃあ、いっしょに行く! ふたりで行こうよ、おねえちゃん」

「ふたりで家を出ちゃったら、お父さんとお母さんさみしがっちゃうよ」

「だってだって、おねえちゃんに会えなくなるのイヤだ! さみしいもん」

「お父さんやお母さんに会えなくなるのだって、さみしいでしょ?」

「うっうっ、ひっく…やだぁ、おねえちゃんいっちゃやだぁ」


泣き出した弟をなぐさめようと姉はその手をひいて夜明けの牧場に出た。
ひんやりとした朝の空気に姉は一瞬ぶるっと身震いをする。
弟は姉の手をぎゅっと握りしめ離すもんかという顔つきをしている。

二人は並んで鳥小屋へと入って行った。
ニワトリやアヒルたちは体を丸くして眠っているようだった。


「みんなまだ寝てるね。あとでタマゴいっしょに取りに来ようね」

「うん」


鳥小屋から出てきた二人はまだ淡い色の芽が出たばかりの畑へと歩いて行く。
その小さな芽を見ながら姉は弟に語りかける。


「ねぇ、ここにお母さんが一人でやってきた話し聞いた事ある?」

「ううん、おかあさん一人で来たの? おとうさんは?」

「お父さんとはここに来て出会ったの。
   最初はお母さん一人で全部やっていたんだって」

「おかあさん、すごいね!」

「うん、お母さんすごい。
   だからね、お姉ちゃんもお母さんみたいになりたいんだよ。
   知らない土地で知らない人に会って、いろんなことやってみたいの」

「…神さまのめいれいじゃなくても?」

「うん、そうだよ」

「ひっく」

「ね、聞いて」

「…ひっく、なぁに?」

「アナタにはね、お母さんのお手伝いしたり
   お父さんを起こしに行ったりしてほしいんだ。できるかな?」

「できるよ! ぼく毎日おねえちゃんの見てたもん。
   あとで…ダバゴ、ひどりでどりにくるよぉ」


弟はくしゃくしゃの泣き顔で答えた。
姉もつられて泣きそうになったのか無理に笑おうとして変な顔になってしまい
ひきつった顔のまま笑うとそれを見た弟も笑った。


◇ガルモーニ鉱山地区へ向かう道

女神の泉に向かって歩く姉弟はもう泣いていなかった。

「フィンの虹はいつでもかけられるんだって。雨の日だってかけられちゃう。
   だから、いつだってすぐに会いに来れるよ。アナタの誕生日もお母さんの
   誕生日もお父さんの誕生日も飛んでくるからね♪」

「うん、ぼくまってるから。それから会いに行くから。にじをわたって。
   いろんなお話をおみやげにもってくから。おねえちゃん、げんきでね!」


見送りに来た人が笑顔で姉に声をかけていく。
両親も静かに微笑んで姉を見送った。


「それじゃ、行ってきまーす!」


見送り来た人達へ姉は元気良く手を振った。
そうして力強い足取りで歩き出す。
空にかかる虹を渡っていく姉に向かって弟は手を振った。

姉の姿が見えなくなるまで

いつまでも、いつまでも。

 

END